柑橘類果実の非破壊味覚検査方法
(11)【特許番号】特許第3102801号(P3102801)
(24)【登録日】平成12年8月25日(2000.8.25)
(45)【発行日】平成12年10月23日(2000.10.23)
(54)【発明の名称】柑橘類果実の非破壊味覚検査方法
(51)【国際特許分類第7版】
G01N 21/65 33/02
【FI】
G01N 21/65 33/02
【請求項の数】1
【全頁数】5
(21)【出願番号】特願平3−31854
(22)【出願日】平成3年1月30日(1991.1.30)
(65)【公開番号】特開平4−254744
(43)【公開日】平成4年9月10日(1992.9.10)
【審査請求日】平成10年1月30日(1998.1.30)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り平成2年9月12日 社団法人日本化学会発行の「講演予稿集▲I▼」第118ページに発表
(73)【特許権者】
【識別番号】591023158
【氏名又は名称】財団法人熊本テクノポリス財団
【住所又は居所】熊本県上益城郡益城町大字田原2081番地10
(73)【特許権者】
【識別番号】391016934
【氏名又は名称】熊本大学長
【住所又は居所】熊本県熊本市黒髪2丁目39番1号
(72)【発明者】
【氏名】谷口 功
【住所又は居所】熊本県熊本市東町4番地18号 東町北住宅14−31
(72)【発明者】
【氏名】上村 幹夫、大友 篤
【住所又は居所】熊本県上益城郡益城町大字田原2081番地10財団法人 熊本テクノポリス財団 電子応用機械技術研究所 内
(74)【代理人】
【識別番号】100098785
【弁理士】
【氏名又は名称】藤島 洋一郎
【審査官】 樋口 宗彦
(56)【参考文献】
【文献】特開 平2−154137(JP,A)
【文献】特開 昭52−63397(JP,A)
【文献】「講演予稿集▲I▼」,社団法人日本化学会,平成2年9月12日,p118
【文献】「レーザーラマン分光学とその応用」,株式会社南江堂,1977年,p5−6、24
【文献】農業機械学会誌,第40巻,第3号,1978年,p389−395
(58)【調査した分野】(Int.Cl.7,DB名)
G01N 21/00 - 21/01
G01N 21/17 - 21/74
G01N 33/02
JICSTファイル(JOIS)
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(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】 柑橘類果実の内部成分と外部成分との相関性を利用して外部成分の非破壊的計測結果から内部成分を推定し、柑橘類果実の味覚を検査する方法において、前記柑橘類果実の表皮に対してラマン分光法による非破壊的計測を行い、前記表皮に含まれるカロチノイド成分に基づくスペクトル強度と前記柑橘類果実の味覚との間の相関性を求めることを特徴とする柑橘類果実の非破壊味覚検査方法。


詳細な説明
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【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の目的】
【0002】
【産業上の利用分野】本発明は、ミカン等の柑橘類果実 の味覚判定を行うための非破壊味覚検査装置に適用される非破壊味覚検査方法に関する。
【0003】
【従来の技術】従来、この種の柑橘類果実の非破壊味覚検査装置としては、たとえば、(i) 柑橘類果実に対して可視光を照射したときの透過光を処理することにより柑橘類果実の果皮におけるカロチノイドなどの含有量を検知して味覚を判定するもの (特開昭52−63397 参照) が提案され、また(ii)有機物 (たとえば柑橘類果実) に対し赤外線を照射したときの1600〜1740cm-1,2800〜3000cm-1およびその中間波長帯の三種の赤外線のうちから選ばれた2種の赤外線の吸光度の比から熟成度を検知して味覚を判定するもの (特開昭53−15890 参照) が提案され、更には(iii) 核磁気共鳴装置によって得られた核磁気共鳴信号から柑橘類果実の品質を測定して味覚を判定するもの (特開昭59−136643参照) が提案され、加えて(iv)柑橘類果実における反射光を受光して3.0 μm以下の近赤外領域に含まれる少なくとも2種の波長に対応する反射率を計測し、その反射率の比を算出して柑橘類果実の品質を検知するもの (特開昭64−28544 参照) などが提案されていた。

課題
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【0004】
【解決すべき問題点】
しかしながら、従来の柑橘類果実の非破壊味覚検査装置では、
(i) 柑橘類果実に対して可視光を照射したときの透過光を利用する場合、透過光の強度が微弱に過ぎてカロチノイドなどの含有量を精度よく検知できない欠点があり、また
(ii)有機物 (たとえば柑橘類果実) に赤外線を照射する場合、2種の波長について吸光度を求める必要があって処理が煩雑となる欠点があり、更には
(iii) 核磁気共鳴装置を利用する場合、小型化が困難で高価となる欠点があり、加えて
(iv)柑橘類果実における光の反射率を利用する場合、2種の波長の光について反射率を求める必要があり、かつ光の反射率によって得られる表面情報と味覚との間の相関関係が小さい欠点があった。
【0005】本発明はかかる問題点に鑑みてなされたもので、その目的は、ミカン等の柑橘類果実の味覚判定を、非破壊状態で、精度良く、しかも短時間で行うことを可能とする柑橘類果実の非破壊味覚検査方法を提供することにある。
【0006】【発明の構成】
【0007】本発明による柑橘類果実の非破壊味覚検査方法は、柑橘類果実の表皮に対してラマン分光法による非破壊的計測を行い、表皮に含まれるカロチノイド成分に基づくスペクトル強度と柑橘類果実の味覚との間の相関性を求めることを特徴するものである。
【0008】本発明による柑橘類果実の非破壊味覚検査方法では、表皮に含まれるカロチノイド成分に基づいてスペクトル強度と柑橘類果実の味覚との間の相関性が求められるので、この相関性を利用して、蜜柑等の柑橘類果実の味覚判定を、非破壊状態で、精度良く、しかも短時間で行うことが可能になる。
【0009】以下、本発明の柑橘類果実の非破壊味覚検査方法を適用した非破壊味覚検査装置について、その好ましい実施例を挙げ、添付図面を参照しつつ、具体的に説明する。
【0010】
【0011】
【0012】(添付図面)【0013】図1は、本発明にかかる柑橘類果実の非破壊味覚検査装置の一実施例を示すための構成図である。
【0014】図2は、図1に示した実施例の具体的な動作を説明するためのグラフであって、温州ミカンに波長が514.5nmで強度40mWのレーザー光を照射して得られたラマン散乱光のスペクトル強度とそのラマン散乱光の波数との間の関係を示している。なお、波数の値はラマン散乱光の、用いたレーザ光(励起光)の波数からのシフト分を表したものであり、これは以下の説明においても同様である。
【0015】図3は、図1に示した実施例の具体的な動作を説明するためのグラフであって、温州ミカンの糖酸比と、温州ミカンに波長が514.5nmで強度40mWのレーザー光を照射して得られた1159cm- 1 の波数をもつラマン散乱光のスペクトル強度との関係を表すものである。この図からも明らかなように、温州ミカンの糖酸比(すなわち、味覚の良否)とラマン散乱光のスペクトル強度との間には正の相関関係を有している。以下に説明する本発明の実施例は、この味覚とスペクトル強度との間の相関関係を利用して、温州ミカンの果皮に含まれるカロチノイドに起因して発生したラマン散乱光のスペクトル強度から非破壊的に味覚を判定しようとするものである。
【0016】(実施例の構成)
【0017】まず、図1を参照しつつ、本発明にかかる柑橘類果実の非破壊味覚検査装置の一実施例について、その構成を詳細に説明する。
【0018】10は、本発明にかかる柑橘類果実の非破壊味覚検査装置であって、検査対象たる柑橘類果実Mに対して適宜の波長および適宜の強度をもつレーザー光Lを照射するためのレーザー光照射手段20と、レーザー光照射手段20によってレーザー光Lが照射されるに際して柑橘類果実Mの果皮に含まれたカロチノイドに起因して発生されたラマン散乱光Rのスペクトル強度に基づき柑橘類果実Mの味覚の良否を判定するための味覚判定手段30とを備えている。
【0019】レーザー光照射手段20は、レーザー管21a の両端部に対して反射鏡21b,21c が配設されており適宜の波長 (たとえばアルゴンの場合514.5nm)および適宜の強度(たとえば40mW) をもつレーザー光Lを発生するためのレーザー光発生装置21と、レーザー光発生装置21によって発生されたレーザー光Lを柑橘類果実Mに照射する目的で集光するためのレンズ22と、レンズ22によって集光されたレーザー光Lの光路を変更して柑橘類果実Mの適宜の箇所に照射するためのプリズム23とを包有している。
【0020】味覚判定手段30は、レーザー光照射手段20によってレーザー光Lが照射されるに際して柑橘類果実Mの果皮に含まれたカロチノイドに起因して発生されたラマン散乱光Rを平行光線に変えるためのレンズ31と、レンズ31によって平行光線に変えられたラマン散乱光Rを集光するためのレンズ32と、レンズ32によって集光されたラマン散乱光Rを分光してラマン散乱光Rのスペクトルを求めるための分光器34と、分光器34によって求められたラマン散乱光Rのスペクトルを受光してその強度 (“スペクトル強度”という) を求めるための受光装置35とを包有している。
【0021】味覚判定手段30は、更に、受光装置35に対して接続されており受光装置35によって求められたラマン散乱光Rのスペクトル強度を判定基準と比較して柑橘類果実Mの味覚の良否を判定するための判定装置36と、判定装置36に接続されており柑橘類果実Mの味覚の良否を判定するための判定基準を予め柑橘類果実の破壊試験によって得られた知見に応じ判定装置36に対して設定するための設定装置37と、判定装置36に対して接続されており判定装置36によって判定された結果 (すなわち柑橘類果実Mの味覚の良否) を出力するための出力装置38とを包有している。ちなみに、判定装置36は、スペクトル強度がピークとなる適宜の波数 (たとえば1130〜1200cm-1あるいは1500〜1560cm-1) をもつラマン散乱光Rのスペクトル強度を判定基準と比較することにより、柑橘類果実Mの味覚の良否を判定している。また、出力装置38は、柑橘類果実Mの等級付けなどに利用する目的で、判定装置36の判定結果を表示しあるいは記録している。
【0022】

作用
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(実施例の作用)【0023】また、図1を参照しつつ、本発明にかかる柑橘類果実の非破壊味覚検査装置の一実施例について、その作用を詳細に説明する。
【0024】本発明にかかる柑橘類果実の非破壊味覚検査装置10では、まず、レーザー光照射手段20が、適宜の波長および適宜の強度をもつレーザー光Lを発生して検査対象たる柑橘類果実Mの適宜の箇所に照射する。
【0025】すなわち、レーザー光発生装置21が、レーザー管21aとその両端部に配設された反射鏡21b、21cとによって、適宜の波長および適宜の強度をもつレーザー光Lを出力している。レーザー光発生装置21によって発生されたレーザー光Lは、レンズ22によって集光され、プリズム23を介して柑橘類果実Mの果皮の所望の位置、例えば果頂部に照射される。【0026】柑橘類果実Mは、レーザー光Lが照射されると、果皮に含まれたカロチノイドに起因して、ラマン散乱光Rを発生する。
【0027】ラマン散乱光Rは、レーザー光Lの反射に伴なう影響を排除する目的で、レーザー光Lの照射方向に直交する方向に向けて発生されたものが、味覚判定手段30に対して与えられている。
【0028】味覚判定手段30では、ラマン散乱光Rは、レンズ31によって平行光線に変えられたのち、レンズ32によって集光されて分光器34に与えられている。分光器34では、ラマン散乱光Rが分光され、ラマン散乱光Rのスペクトルが求められる。
【0029】分光器34によって求められたカロチノイドに固有の適宜の波数 (たとえば1130〜1200cm-1および1500〜1560cm-1のうちの少なくとも一方)をもつラマン散乱光Rのスペクトルは、受光装置35によって受光され、そのスペクトル強度が求められる。受光装置35によって求められたカロチノイドに固有の適宜の波数(たとえば1130〜1200cm-1および1500〜1560cm-1のうちの少なくとも一方)をもつラマン散乱光Rのスペクトル強度は、判定装置36に与えられ、柑橘類果実Mの味覚の良否を判定するために供されている。
【0030】判定装置36では、(i) カロチノイドに固有の適宜の波数 (たとえば1130〜1200cm-1および1500〜1560cm-1のうちの少なくとも一方) をもつラマン散乱光Rのスペクトル強度が判定基準 (たとえば1.0a.u.)以上となったとき、柑橘類果実Mの味覚が良好であるものと判定しており、(ii)カロチノイドに固有の適宜の波数 (たとえば1130〜1200cm-1および1500〜1560cm-1のうちの少なくとも一方) をもつラマン散乱光Rのスペクトル強度が判定基準 (たとえば1.0a.u.)未満となったとき、柑橘類果実Mの味覚が不良であるものと判断している。判定装置36における判定基準は、所望に応じて複数設定してもしてよい。
【0031】判定装置36の判定結果は、出力装置38に与えられ、所望に応じて表示され、あるいは記録されており、柑橘類果実Mの等級付けなどに利用される。
【0032】 (具体例)
【0033】加えて、本発明にかかる柑橘類果実の非破壊味覚検査装置の理解を促進するために、具体的な数値などを挙げて、一層詳細に説明する。
【0034】実験例1
【0035】内部にアルゴンの収容されたレーザー管を利用して 514.5nmの波長をもつ強度40mWのレーザー光を発生し、柑橘類果実 (ここでは温州ミカン) に照射したときに柑橘類果実からレーザー光の照射方向に対し直交する方向に向けて放出されるラマン散乱光のスペクトル強度を受光装置で求めたところ、図2に示したごとく、1159cm-1付近および1527cm-1付近に大きなピークが見られた。
【0036】実験例2
【0037】内部にアルゴンの収容されたレーザー管を利用して 514.5nmの波長をもつ強度40mWのレーザー光を発生し、柑橘類果実 (ここでは温州ミカン) に照射したときの1159cm-1付近の波数をもつラマン散乱光のスペクトル強度と、その柑橘類果実を破壊して検出した糖酸比との間には、図3に示したごとき相関関係があった。
【0038】糖酸比は、柑橘類果実の総糖度と総酸度との比をいう。総糖度とは、柑橘類果実の単位重量あたりのショ糖の含有量を1倍し、かつ柑橘類果実の単位重量あたりの果糖の含有量を1.5倍し、かつ柑橘類果実の単位重量あたりのブドウ糖の含有量を0.7 倍して、互いに加算した柑橘類果実の単位重量あたりの糖の含有量をいう。総酸度とは、柑橘類果実の単位重量あたりのLアスコルビン酸の含有量がクエン酸の含有量に比べて極めて少量でかつLアスコルビン酸の酸味がクエン酸の酸味に 比べて半分であるので、柑橘類果実の単位重量あたりのクエン酸の含有量をいう。
【0039】実験例3
【0040】実験例2で使用した柑橘類果実 (ここでは温州ミカン) の幾つかを食したところ、1159cm-1の波数をもつラマン散乱光のスペクトル強度が、
(i) 0.5 未満では、甘味が不足しており、
(ii)0.5 以上で1.0 未満では、甘味が控え目であり、
(iii) 1.0 では、甘味が適度であり、
(iv)1.0 を超えると、甘味が過多であった。
【0041】
【発明の効果】以上説明したように本発明の柑橘類果実の非破壊味覚検査方法によれば、柑橘類果実の表皮に対してラマン分光法による非破壊的計測を行い、表皮に含まれるカロチノイド成分に基づくスペクトル強度と柑橘類果実の味覚との間の相関性を求めるようにしたので、ミカン等の柑橘類果実の味覚判定を、非破壊状態で、精度良く、しかも短時間で行うことが可能となる。