黄斑カロチノイドレベルの測定法および装置
(11)【公表番号】特表2001−517978(P2001−517978A)
(43)【公表日】平成13年10月9日(2001.10.9)
(54)【発明の名称】黄斑カロチノイドレベルの測定法および装置(拒絶査定
(51)【国際特許分類第7版】
A61B 3/10
【FI】
A61B 3/10 R
【審査請求】未請求
【予備審査請求】有
【全頁数】21
(21)【出願番号】特願平10−539772
(86)(22)【出願日】平成10年3月11日(1998.3.11)
(85)【翻訳文提出日】平成11年2月16日(1999.2.16)
(86)【国際出願番号】PCT/US98/04786
(87)【国際公開番号】WO98/40006
(87)【国際公開日】平成10年9月17日(1998.9.17)
(31)【優先権主張番号】08/815,936
(32)【優先日】平成9年3月13日(1997.3.13)
(33)【優先権主張国】米国(US)
(81)【指定国】EP(AT,BE,CH,DE,DK,ES,FI,FR,GB,GR,IE,IT,LU,MC,NL,PT,SE),AU,BR,CA,JP,KP,MX,NZ
(71)【出願人】
【氏名又は名称】ザ ユニヴァーシティ オブ ユタ リサーチ ファウンデーション
【住所又は居所】アメリカ合衆国 ユタ州 84108ソルト レイク シティ ワカラ ウェイ 421 スイート 170
(72)【発明者】
【氏名】バーンシュタイン ポール エス
【住所又は居所】アメリカ合衆国 ユタ州 84121ソルト レイク シティ サウス オールド ミル サークル 6633
(72)【発明者】
【氏名】ゲラーマン ワーナー
【住所又は居所】アメリカ合衆国 ユタ州 84103ソルト レイク シティ イースト ケンジントン 1360
(72)【発明者】
【氏名】マックレイン ロバート ダブリュー
【住所又は居所】アメリカ合衆国 ユタ州 84103 ソルト レイク シティ ノース“エイチ”ストリート 484
(74)【代理人】
【弁理士】
【氏名又は名称】杉村 暁秀 (外5名)
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(57)【要約】
本発明は生体組織中の斑紋色素のレベルを測定するのに使用する新規にして有用な方法及び装置を指向する。特に、本発明の方法及び装置は黄斑カロチノイドのレベルを健康な組織を冒すことのない、迅速な、客観的測定法を提供し、更に、多くの人々に適用可能な価値ある診断情報を提供する。本発明は黄斑カロチノイド色素やその他の網膜物質のレベルを測定する。単色レーザー光は網膜上、好ましくは黄斑領域に投射される。次いで非常に感度のよい探知システムが網膜からの散乱光を探知する。光の大部分はレイリー散乱として知られた方式でレーザーと同じ波長で弾性散乱する。極めて小部分のレーザー光はラマン散乱として知られた方式でレーザーの波長と異なった波長で非弾性散乱する。ラマン散乱光は選択されて次いで探知システムに送られ、そこで得られた結果は試験される特別な網膜物質に対する実際の標準に対して較正される。
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【特許請求の範囲】
1.黄斑カロチノイドのレベルの次の工程を含む測定方法。
a.探知される黄斑カロチノイドに対する波長遷移をもったラマン応答を生じ
b.該光源から黄斑カロチノイドのレベルを測定すべき目の斑紋組織上に、該斑紋組織の光凝固又は破壊を生ぜず前記黄斑カロチノイドのレベルを変えない強度を有する光を指向する工程;
c.前記斑紋組織からの弾性散乱光及び定量し得る強度を有する非弾性散乱光を含む散乱光を集める工程;
d.前記弾性散乱光をフィルターして除去する工程;及び
e.前記非弾性散乱光の強度を定量する工程。
2.前記光源は450−550nmの範囲の波長の光を発生するクレーム1に記載した方法。
3.前記光源は探知すべき前記黄斑カロチノイドの吸収帯とオーバーラップする波長の光を発生するクレーム1に記載した方法。
4.前記斑紋組織が生体中に存在するクレーム1に記載した方法。
5.前記散乱光が、弾性散乱光を非弾性散乱光からフィルターするスペクトル選択手段を経てフィルターされるクレーム1に記載した方法。
6.前記スペクトル選択手段が回折格子モノクロメータであるクレーム5に記載した方法。
7.前記スペクトル選択手段がホログラフィックフィルタであるクレーム5に記載した方法。
8.前記散乱光を黄斑カロチノイド固有の周波数で測定するクレーム1に記載した方法。
9.前記非弾性散乱光を、実際の黄斑カロチノイドのレベルで較正したシグナル強度を経て定量するクレーム1に記載した方法。
10.前記実際のカロチノイドのレベルがヒトの死後の目の検査から得るクレーム9に記載した方法。
11.前記実際のカロチノイドのレベルがヒト以外の霊長類の実験から得るクレーム9に記載した方法。
12.網膜組織に沈着して濃縮された物質の次の工程を含む探知方法。
a.探知される物質に対する波長遷移をもったラマン応答を生じる波長で光を発生する光源を取得する工程;
b.該光源から前記物質のレベルを測定すべき目の網膜組織上に前記レーザーから、該網膜組織を破壊ぜず前記物質のレベルを変えない強度を有する光を指向する工程;
c.前記網膜組織からの弾性散乱光及び定量し得る強度を有する非弾性散乱光を含む散乱光を集める工程;
d.前記弾性散乱光をフィルターして除去する工程;及び e.前記非弾性散乱光の強度を定量する工程。
13.前記光源は450−550nmの範囲の波長の光を発生するクレーム12に記載した方法。
14.前記光源は探知すべき前記物質の吸収帯とオーバーラップする波長の光を発生するクレーム12に記載した方法。
15.前記網膜組織が生体中に存在するクレーム12に記載した方法。
16.前記散乱光を、弾性散乱光を非弾性散乱光からフィルターするスペクトル選択手段を経てフィルターするクレーム12に記載した方法。
17.黄斑カロチノイドのレベルを健康な組織を冒さずに測定するための次の手段を含む装置。
a.探知される黄斑カロチノイドに対する波長遷移をもったラマン応答を与える波長内で光を発生する手段;
b.該斑紋に損傷を与えず前記黄斑カロチノイドのレベルを変えない強度を有する該光を目の斑紋上に指向する送達手段;
c.前記斑紋からの散乱光を集めるための集光手段 e.該集光手段によって集めた散乱光からラマン遷移した光を選択するスペクトル選択手段;及び f.黄斑カロチノイド固有の周波数でラマン遷移した前記光を走査し測定する探知手段。
18.前記発光手段がレーザー光線であるクレーム17に記載した装置。
19.前記発光手段が450から550nmの範囲の光を発生するクレーム17に記載した装置。
20.前記発光手段が探知すべきカロチノイドの吸収帯とオーバーラップする波長の光を発生するクレーム17に記載した装置。
21.前記発光手段が1ミリワットのレーザー出力に等しい露光を含むクレーム17に記載した装置。
22.前記発光手段が1mmの露光スポットサイズを含むクレーム17に記載した装置。
23.前記発光手段が10秒の露光時間を含むクレーム17に記載した装置。
24.前記送達手段が直接検眼鏡を含むクレーム17に記載した装置。
25.前記送達手段がスリットランプを含むクレーム17に記載した装置。
26.前記集光手段が光ファイバを含むクレーム17に記載した装置。
27.前記スペクトル選択手段が回折格子探知器を含むクレーム17に記載した装置。
28.前記スペクトル選択手段がホログラフィックフィルタを含むクレーム17に記載した装置。
29.前記ラマン遷移光を定量するクレーム17に記載した装置。
30.前記定量したラマン遷移光を較正するクレーム29に記載した装置。
31.網膜組織に沈着して濃縮された物質を健康な組織を冒さずに探知するための次の手段を含む装置。
a.探知される物質に対する波長遷移をもったラマン応答を与える波長内で光を発生する手段;
b.該網膜に損傷を与えず探知される物質の濃度を変えない強度を有する該光を目の網膜上に指向する送達手段;
c.前記網膜からの散乱光を集めるための集光手段
e.該集光手段によって集めた散乱光からラマン遷移した光を選択するスペクトル選択手段;
f.前記探知される物質に固有の周波数でラマン遷移した前記光を走査して測定する探知手段;及び g.探知される前記物質のラマンシグナル強度を測定する定量手段。
32.前記発光手段が探知すべき物質の吸収帯とオーバーラップする波長の光を発生するクレーム29に記載した装置。


詳細な説明
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【発明の詳細な説明】
黄斑カロチノイドレベルの測定法および装置

発明の背景

1.発明の分野
本発明は一般に眼の解剖において捜し出される化学的化合物のレベルを測定する方法及び装置、特に眼の病気に罹る危険性を評価するために眼の中の化合物を測定する方法及び装置に関する。

2.関連技術
視覚、即ち、視力の感覚は、一般に眼と称する複雑な解剖学的組織によって対象物の形態、色彩、大きさ、運動、及び距離を知覚する人の能力である。視覚は光が眼を通過して眼の背後にある網膜の感覚細胞によって吸収されるときに生じる。特に、光は眼の角膜に入り、瞳孔を通過して、次いで水晶体を通り、そこから網膜に投射される。ヒトの視覚は波長約380−720ナノメーターの可視スペクトルの光に対して特に鋭敏である。
影像を実際に見るためには、眼の水晶体は影像を網膜上の焦点にもって来なければならない。明瞭な視覚、即ち、視覚の鋭さは影像の鮮明さにより、また一部は水晶体の能力に依存する。視覚の鋭さが最大の網膜の部分は中心窩と呼ばれる。中心窩においては、光は個々の光受容体即ち光に電気的に応答する感覚細胞上に直接落ち、一方、網膜の他の領域にある光は光受容体に到達する以前に数層の神経細胞を通過しなければならない。
中心窩を取り巻いているのは斑紋と呼ばれる領域である。斑紋は、入射光から他の網膜組織よりも効果的に保護されていない。何故ならば入射光と光受容体との間にある細胞層がより少ないからである。斑紋はカロチノイドのルテインおよびゼアキサンチンが高濃度で存在するために典型的に黄色である。これらのカロチノイドは、健康食の通常の成分であり、合衆国の高齢者間の非可逆的盲目の主原因である年齢関連の斑紋変質に対して統計学上有意の保護を提供することが示されている。ルテインおよびゼアキサンチンは斑紋組織中で活発に濃縮され、そこで光毒性短波長可視光を遮り、フリーラジカル捕集酸化防止剤として作用すると信じられる。これらのカロチノイドが不十分なレベルであると斑紋組織の光による酸化損傷が生じると信じられる。
黄斑カロチノイドのレベルを検知することは可能である。一つの技法は高性能液体クロマトグラフィ(HPLC)や可視吸光分光分析のような従来の生化学的手段を利用して死後の眼の組織におけるカロチノイドのレベルを測定する。しかし、この技法は、生体関連の利用に対して全く価値がないことから明かに難点がある。
ヒトの黄斑カロチノイドを健康を組織を冒さずに測定するための従来の技法は「主観的精神物理学的フリッカー測光試験」であり、それは網膜の窩を狙った光線が疑似窩領域に向けた光線と釣り合う色の強度に関係する。この技法は時間集約的であり、高度に精巧な光学装置と高度に熟練した技術者の双方を必要とする。加えて、患者は用心深く協力的で、且つ比較的良好な視覚の鋭さをもたなければならない。そのような要件は、正に視覚の鋭さの減退の本質たる、年齢関連の斑紋変質の危険のある高齢者の黄斑カロチノイドを評価するためのこの技法の有用性を制限する。老齢の患者は必要な情報を技術者に伝えようとすることに欲求不満を募らせるだろう。明かに、従来の技法は、伝達できない患者や動物の黄斑カロチノイドのレベルを試験するのに伝達力がない。

概要
本発明はラマン分光学の原理を用いて黄斑カロチノイド色素やその他の物質のレベルを定量的に測定する。単色レーザー光は網膜の斑紋領域に指向される。そのとき非常に敏感な探知システムが網膜からの散乱光を探知する。大部分の光はレーザーの同一波長で弾性的に散乱する。レーザー光の極少部分がレーザーのその波長と異なった波長で非弾性的に散乱する。次いで散乱光は探知システムに送られてそこで非弾性散乱光が選択的にフィルターされ測定される。その結果は試験される黄斑カロチノイド或いは特別な網膜物質の実際の標準に対して較正される。
本発明のこれらの及びその他の目的と特徴は以下の記載及び添付のクレームから、より完全に明らかになろう、或いは以下に述べるような発明を実施することにより習得されよう。

【図面の簡単な説明】
発明の上記及びその他の利点と目的を得る方法をより十分に理解するために、発明の更に特殊な記載を、添付図面に説明するその特殊な具体例を参考にして述べよう。これらの図面は発明の代表的具体例のみを叙述するに過ぎず、従ってその範囲を限定するものと考えてはならず、発明を製造し使用するためのその現に理解される最良の方式における発明を次の図面の使用を通じて追加の特殊性と詳細を記載し説明しよう。
図1は、選択されたカロチノイドのラマンスペクトルの図式表示である。
図2は、図1のカロチノイドの吸収スペクトルの図式表示である。
図3は、本発明の装置の該要図である。
図4は、斑紋の中心からの種々の距離において測定されたラマンシグナル強度の図式表示である。
図5Aは、斑紋の中心におけるラマンシグナル強度の図式表示である。
図5Bは、斑紋の中心の外側のラマンシグナル強度の図式表示である。

好ましい態様の詳細な説明
合衆国の人口の最も速い成長部分は65歳以上の老人からなる。この同じグループにおける非可逆的盲目の主原因は斑紋即ち網膜の視覚鋭敏センターの年齢関連の変質である。従って、老齢人口の増加に伴って、年齢関連の斑紋の変質の趨勢と影響も増大するであろう。それ故、年齢関連の斑紋の変質の始まりを防止し或いは遅らせることから来る利点はこの増加人口に大きな有益な効果を齎す。
カロチノイドのルテインおよびゼアキサンチンは、損傷を与える短波長可視光を遮りフリーラジカル捕集酸化防止剤として作用することによって年齢関連の斑紋の変質をかなり防止するであろうことが例証された。患者が視力損傷又は盲目の徴候を表す以前にルテイン及びアゼキサンチンのレベルを確かめることはかなり有益なことに相違ない。
現在、黄斑カロチノイドのレベルを評価する二つの主要な技法が存在する。一つの技法は、従来の生化学的手段、例えば高性能液体クロマトグラフィ(HPLC)および可視光吸収スペクトル光度測定術を用いて、死後の眼の組織中のカロチノイドのレベルを客観的に測定する。然し乍ら、このメカニズムは、死後の眼の組織を得た実際の患者には生前有益であったであろう予防的価値又は実際の応用が全くないことから問題である。
黄斑カロチノイドのレベルを評価する二番目の従来の技法は、患者が網膜の窩を狙った光線の色の強度と疑似窩領域に向けた光線の色の強度とを釣り合わせる必要がある。この技法は時間集約的であり、高度に精巧な光学装置と高度に熟練した技術者の双方を必要とする。加えて、患者は用心深く協力的で、且つ比較的良好な視覚の鋭さをもたなければならない。そのような要件は、正に視覚の鋭さの減退の本質たる年齢関連の斑紋変質の危険のある老齢者の黄斑カロチノイドを評価するためのこの技法の有用性を制限する。老齢の患者は必要な情報を技術者に伝えようとすることに欲求不満を募らせるだろう。更にまた、従来の技法は、伝達できない患者や動物を試験するのに伝達力がない。この技法は客観的標準を欠き、良くても不正確であるという難点がある。
本発明は、眼の斑紋組織に関する病気に罹る患者の危険性を評価する方法及び装置に関するもので、従来の技法で遭遇した問題を解決する。特に、本発明の方法及び装置は、生きている患者における黄斑カロチノイドのレベルの、健康な組織を冒すことのない迅速な客観的測定法を提供する。続いて、本発明は、進展する年齢関連の斑紋変質の個々のリスクを評価し、その予防のための実験記録を定めるのに役立つ多くの人々に適用可能な価値のある診断情報を提供する。
レーザーラマン分光学と称する技法においては、単色のレーザー光線が試験される特殊な物質に指向される。次いで、非常に感度のよい探知システムが、物質から反射され又は散乱される光を検知する。物質から反射される光の大部分は、最初に投射されたレーザー光と同一波長でレイリー散乱として知られている方式で弾性散乱される。物質から反射される光の極小部分は、最初に投射されたレーザー光と異なる波長でラマン散乱として知られている方式で非弾性散乱される。
次いで、ラマン散乱光は、フィルタ、光学格子、プリズム、およびその他の波長選択技法を用いてレイリー散乱光から分離する。
ラマン及びレイリー散乱光間のエネルギー差は、波数(cm-1)で表され、評価される物質中の種々の分子の、振動、回転、或いは遊離状態、若しくはそれらの混合状態に関係する。得られるラマンスペクトルにおけるピークのそれぞれは分子或いはその成分の特別なラマン活性振動に対応する。ラマンエネルギーの遷移は指向されたレーザー光の波長と独立している。即ち特殊な物質に対する弾性散乱光と非弾性散乱光に対応するエネルギー差はその物質に対して一定のままである。
ラマン散乱から用られた特性は、ある物質を捜しだし、同定し、その濃度を定めるのに使用し得る。得られるラマンピークの絶対強度は物質中のラマン活性な分子の濃度に直接に関係する。黄斑カロチノイドのルテインとゼアキサンチンはラマン散乱特性を示すことが確認され、その結果は明瞭なスペクトルの位置において、シグナル強度とスペクトルの幅を表す。特に、ルテインとゼアキサンチンは、図1に図示したように、1160と1520cm-1近辺の強い特有のラマン散乱シグナル、及び1000cm-1近辺のより弱いシグナルを示す。更に、いずれか一つ又は全ての得られたラマンピークの分離が可能である。また、ルテインとゼアキサンチンはそれらのそれぞれの吸収帯、例えば450から550ナノメータとオーバーラップする範囲のレーザー光によって励起されるとき共鳴ラマン散乱増幅を証明する。
しかも、低出力のルーザー、例えば1ミリワットの可視レーザー励起源の使用は、レーザー励起源の強度と較べて、典型的には極端に弱いラマン散乱となる。
加えて、ラマンシグナルは同じ或いは他の物質の蛍光から出る遥かに強力なシグナルに往々にして圧倒される。従って低出力のレーザー光を目の斑紋中に指向して、なお有用なラマンシグナルを発生させることは予期されなかった。
本発明の特徴は、網膜を低いレーザー出力に曝すことにより斑紋組織に対する有意な損傷無しに有用な黄斑カロチノイドのラマンシグナルを発生するようなラマン分光学を利用して、生体の黄斑カロチノイドを測定する方法及び装置を提供することである。本発明の方法及び装置は網膜組織中に存在するその他の物質を検知するのに利用することも可能であることもまた理解すべきである。
本発明の現に好ましい態様において、図3は黄斑カロチノイド測定のための装置を全体に番号20を付して概要説明をおこなう。好ましくは、本発明の装置はレーザー光源22から光を発生する。また、単色光を発生する光源、及び如何なるその他の光投射システムを含み、しかしそれらに限定されることなく、光を発生する外の手段は本発明の範囲内にある。
本発明の好適な態様において、レーザー光源22は450から550nmの範囲のレーザー光を発生し、それは黄斑カロチノイドに対する吸収特性に対応する。然し乍ら、本発明はこれらの波長の光を発生することに限定されないことを理解すべきである。例えば、発生する光の他の波長が本発明の装置に効果的であろう。
発生した光は好ましくは発生光の送達システム24を経て患者の目34へ向けられる。然し乍ら、発生光を向けるための種々の送達手段が本発明の範囲内にあることを認めるべきである。例えば、発生光を向けるための或る好ましい送達手段はスリットランプである。他の好ましい送達手段は検眼鏡と鏡とで向けられることを含むがそれらに限定されない。また、発生光を向けるための送達手段は、共に当業者に熟知されている走査レーザー検眼鏡または光干渉性X線断層撮影(optical coherence tomography)に使用される方法と類似の方法で斑紋の範囲を横切って走査する僅かの光を加えてもよい。
網膜に向けられる光は或る最大許容露光量に制限される。その一例は1ミリワットのレーザー出力に相当し、スポットサイズ1mmで露出時間10秒であり、それで安全且つ十分である。その他の出力、サイズ及び露出時間も、網膜組織に対して安全限界に有る限り、本発明の範囲内であることを認めるべきである。本発明はかなり減少した露光量と時間とを特に期待する。
斑紋領域から散乱して帰って来る光は、目の水晶体で程よく焦点を合わせ、瞳孔を通って放射され、その後、引き続いて集光システム26を経て集められる。
図3に示した好適な態様において、集光システム26は光送達システム24と構造的に一体となっている。別の具体例においては、集光システムは光送達システムから構造的に別れていよう。
斑紋から散乱して帰って来る光を集めるための他の集光手段も本発明の範囲内であることを認めるべきである。そのような集光手段は光ファイバ、レンズ、鏡、及びそれらの組み合わせを含む。
散乱光は次いでラマン散乱光のみを選択しレイリー散乱光を拒絶する、ラマンシグナルがレイリーシグナルからの干渉なしに解析され得るような分光選択システム28に導かれる。非弾性散乱光から弾性散乱光をフィルターし得る散乱光フィルタのための如何なる分光選択手段も本発明の範囲内であると理解されるべきである。一つの好ましい分光選択手段は格子モノクロメーターである。他の例は、ホログラフィックフィルター、プリズム、誘電体、またはそれらの組み合わせを含むが、それらに限定されない。
散乱光はスペクトル選択されて、光探知システム30へ導かれ、黄斑カロチノイドに特有の約1160と1520cm-1のラマンピークの領域における波長の関数としての散乱光の強さを測定する。別の具体例においては、散乱光の強度を測定する他の光探知手段、例えばCCD,光電倍増管、またはフォトダイオードのような他のどんな感光性光探知器も又本発明の範囲内である。
好ましい具体例においては、光探知システム30は散乱光シグナルをコンピュータモニターまたは他の類似のスクリーンのようなビジュアルディスプレイ手段上にビジュアルディスプレイのために変換する。しかし、光探知システム30は散乱光シグナルを数字、ディジタル用のフォーマット、あるいは他の探知用のフォームに変換してよいと理解すべきである。
得られたラマンシグナル強度は好ましくは、ヒトの死後の目で化学的に測定されたカロチノイドのレベルと較べて或いはヒトを除く霊長類で実験することによって較正し得る定量システム32を経て分析される。ラマンシグナル強度を較正するための他の定量法も本発明の範囲内である。
本発明の装置を使用するためには、第一の工程は好ましくは図3に示したようにレーザー光源22から光を発生することを含む。光は好ましくは黄斑カロチノイドに対する吸収特性に相当する450〜550nmの範囲で発生される。発生した光は次いで好ましくは光送達システム24を経て患者の目34に指向される。患者の斑紋領域への光の指向は、患者を光に固定させるか適宜な光学システムを経て手術者が直接確認することにより、更に達成されるであろう。光は、黄斑カロチノイド色素の沈着の大部分の範囲をカバーするために選択的に指向される。
斑紋領域から散乱して反射する光は次いで集光システム26を経て集められる。散乱光は次いで、ラマンシグナルがレイリーシグナルからの干渉なしに分析されるように、ラマン散乱光のみを選択してレイリー散乱光を拒絶するスペクトル選択システム28へ送られる。散乱光はスペクトル選択されて後、光探知システム30へ導かれ、黄斑カロチノイドに特有の約1160と1520cm-1のラマンピークの領域における波長の関数としての散乱光の強さを測定する。光探知システム30は次いで散乱光シグナルをコンピュータまたは他の類似のスクリーンのようなビジュアルディスプレイ手段上にビジュアルディスプレイのために変換する。得られたラマンシグナル強度は、好ましくはヒトの死後の目の検査を通した実際のカロチノイドのレベルの結果或いはヒトを除く霊長類での実験、によって較正する定量ディスプレイシステム32を経て分析される。
黄斑カロチノイドに対する強いラマンシグナルが低い露光量を用いてヒトの網膜組織から容易に得られることを実証する研究が行われた。網膜の放射はシグナル収集システムを継続して適正化すれば更に減少し得ることが期待される。以下の実施例は実験手続きとそれから得られた結果を詳述する。
1.実施例1 6ミリワットの0.5mmアルゴンレーザースポット(488または514nm)を9秒間、平らに載せたヒトの網膜の窩に当てた。斑紋の中心の窩は、最も高い濃度の黄斑カロチノイドを含有する。散乱したレーザー光を集めて市販の回折格子モノクロメーター、例えばスペックス・トリプルメイト(Spex Triplemate)で、超低温に冷却したCCDアレイを用いて分析した。シグナル強度の実際のカロチノイドのレベルとの較正は、ヒトまたは霊長類の死後の目を用いて達成した。
4図、グラフAは、窩における黄斑カロチノイドに特有の強いラマンスペクトルを弱い蛍光背景の上に重ねて図示する。レーザースポットは図4、グラフBからGに説明したように窩から偏心的に動くので、ラマンシグナルは漸進的に弱くなった。事実、グラフGに示したように、レーザーが窩から3mm離れる毎に、ラマンシグナルの強さは少なくとも20倍だけ減少した。これはごく近い解剖学で黄斑カロチノイド濃度における変化を探知するのに十分な感度を証明した。
2.実施例2 直径1.5mmの更に低出力の2ミリワットの514nmアルゴンレーザースポットをヒトの目の杯状窩の斑紋の中心に5秒間当てた。5(a)図にグラフで示したように、特有の黄斑カロチノイドのラマンスペクトルが得られた。
斑紋の外側の網膜組織で行った同じ実験は5(b)図にグラフで示したように、ラマンシグナルを全く示さなかった。これはガラス質の、網膜色素上皮細胞、脈絡膜、及び鞏膜を含む他の目の組織は実験条件下では探知し得るラマン散乱を発生しないことを証明した。また、実施例2においては、低い(2ミリワットの)レーザー出力は探知し得るラマンシグナルを依然発生した。
3.実施例3 詳細を上述したように、1ミリワットあるいはそれ以下の出力の450から550nmの単色レーザー光を1mmのスポットサイズで数秒間患者の斑紋領域に指向する。斑紋領域がら散乱した光は次いで光ファイバを通して集め、スペクトル選択システムへ導く。そこでレイリー散乱光をフィルターして除きラマン散乱光を選択する。光探知システムは次いで約1160から1520cm-1までの黄斑カロチノイドに特有の周波数においてラマン遷移光の強さを走査し測定する。映像は次いでコンピュータモニター上のビジュアルディスプレイのために変換される。シグナル強度の実際のカロチノイドのレベルとの較正は、ヒトまたは霊長類の死後の目の検査を通じて達成する。
本発明は年齢関連の斑紋変質やその他の遺伝的及び後天的網膜変質の研究に大きい進歩を究極的に提供することを認めるべきである。本方法は黄斑カロチノイドの探知に限定されないことを理解すべきである。本発明の方法は又濃縮されて網膜内に沈着するβ−カロチン及びカンタキサンチン、アスタキサンチン、クロロキン、ハイドロキシクロロキン、チオリダジン、及びタモキシフェンのような薬理学的物質の測定に特に適用可能である。図1と図2は、又、β−カロチン、カンタキサンチン、及びアスタキサンチン、のラマンスペクトルと吸収スペクトルをそれぞれグラフで説明し、ラマン強化散乱がこれらの化合物に対して可能であることを示す。
本発明はその精神または本質的特徴から逸脱することなく他の特殊な形態に具体化されよう。記載した具体例はあらゆる点で説明目的のみであり限定的ではないと考えるべきである。従って、発明の範囲は前述の記載よりは寧ろ添付のクレームによって示される。クレームと均等の意味と範囲内にある全ての変更はそれらの範囲内に包含されるものとする。


fig.1


fig.2


fig.3


fig.4


fig.5